『素晴らしき戦争』

この作品の中心は、ごく普通のスミス一家です。お祭りやピクニックで騒ぐ彼ら。しかし、戦争は彼ら一家を引き裂いていくのです。

志願兵を集めるための、華やかなレビューでヒロインが戦争に行こうという歌を歌います。腹が立ちます。そんな華麗な舞台を見た若者たちは、舞台に出ている若く美しい女性に褒めてもらいたいがために、簡単に志願してしまいます。しかし、そのあとには地獄が待っているのです。みんなが笑顔の中、息子たちが志願するたびに、スミス家の母の複雑な厳しい顔が浮かびます。

この作品は、ミュージカルなので、「はるかなるティペラリー」など、戦争に関係した歌が沢山流れます。「蛍の光」の替え歌もあるし、何故か「リパブリック賛歌」もあります。

感動したのは、泥だらけの塹壕で迎えたクリスマス。ドイツ軍が塹壕でサイレントナイトを歌い、イギリス軍がクリスマスキャロルを歌い返すのです。翌クリスマスの日に、メリー・クリスマスと言い交わし、中間地帯で両軍が酒を飲みます。これこそ、本当の戦場のメリークリスマス。同じキリスト教同士で、多くの人が、一体何のために戦っているのかわからなくなっているような状態で、それでも戦いを続けているのではないかと思いました。イギリス人も、ドイツ人も、ひとりひとりはごく普通の人たちなのに。

ゲストがとにかく豪華です。ローレンス・オリビエ、ラルフ・リチャードソン、ジョン・ギールグッド、ジョン・ミルズ、バネッサ・レッドグレーブ、マギー・スミス、スザンナ・ヨーク、エドワード・フォックス、イアン・ホルム……。ところが、このゲストたちは、戦場には行きません。首相やら国王やら、あるいは上流階級、軍の高級幹部。兵隊たちが塹壕で戦っている間、彼らは豪勢なパーティをドレスアップして楽しみ、狩りを楽しむのです。

非常にブラックなミュージカルです。生きているうちに見たい名作の一本です。

トレイラーです。