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Channel: 銀幕と緑のピッチとインクの匂い
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『紅の翼』

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The High and the Mighty [DVD] [Import]/出演者不明

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THE HIGH AND THE MIGHTY
1954年アメリカ映画  WB カラー 147分
監督 ウィリアム・A・ウェルマン
出演 ジョン・ウェイン ロバート・スタック クレア・トレヴァー ジャン・スターリング ラレイン・デイ ドゥ・アヴドン フィル・ハリス ロバート・ニュートン


 ホノルルからサンフランシスコへと旅客機が飛び立った。所要時間は、12時間16分。機長は、無事故を誇るベテランのサリバン機長(ロバート・スタック)。副操縦士には、ダン・ローマン(ジョン・ウェイン)がいた。ダンは、口笛のダンと言われていた。かつて機長であった彼は、コロンビアで離陸中にスコールに襲われ、機体がふたつに割れて自分だけが生き残ったという壮絶な過去があった。その時、彼は、妻と幼い息子を失ったのだった。
 飛行機には、操縦席に4名、キャビンアテンダントのスポルディングを含めて、総勢21名が乗っていた。ギリギリに席を取った会社経営者。飛行機恐怖症の男性。遺産を相続した妻とそれを元手に夢を追いたい夫。失意の科学者。運の悪いことばかりに遭遇しているセールスマン夫婦。新婚旅行中の夫婦。写真結婚で、婚約者の待つ地に赴くことに不安を抱いている女性など、様々な乗客が乗っていた。平穏な飛行の筈だったが、エンジンのひとつが火を噴いたことから、旅客機は墜落の危機にさらされることになる……。



 監督のウィリアム・A・ウェルマンは、第一回アカデミー作品賞を獲った『つばさ』の監督です。航空映画には大変に定評のある人。そんな彼が、シネマスコープで撮った航空パニック映画です。

 この時代ですから、飛行機はプロペラ機。乗客も多くはありません。飛行機に乗り合わせた彼らの過去や現在の状況がグランドホテル形式で語られていきます。パニック映画のお決まりですが、1954年という時代を考えると、この映画が先駆けだったのではないでしょうか。それまでは、船旅でのグランドホテル形式はありましたが、航空映画では、恐らくこれが初めて。この形式は、のちのエアポートシリーズに受け継がれていったのではないかと思います。

 操縦席には4名が乗り合わせています。何と、休めるベッドまであります。キャビンアテンダントは、操縦席に好きに入れますし、操縦席と客席を隔てるドアには恐らく鍵もない。飛行機が怖いというお客に、機長自らが赴いて、飛行機の安全性を説明するシーンまであり、何とのどかな時代だったのだろう、と感動を覚えます。

 しかし、天候悪化による事故は待ったなしで、彼らを襲います。エンジンが火を噴くところを見た乗客は当然のことながら、パニックに陥ります。操縦席の面々も慌てます。事故の場合にホノルルに戻れるギリギリの距離を過ぎてしまったことから、飛行機はサンフランシスコを目指すしかありません。しかし、燃料が漏れてしまい、果たして行きつけるのかどうか。

 ベテランの機長には、ロバート・スタックが扮します。焦りを出さず、表情を崩さない真面目な機長です。そんな機長を支える機長以上のベテラン副操縦士がジョン・ウェイン。年のいった彼が副操縦士をしているのには、理由がありました。ジョン・ウェインの皴のひとつひとつに苦悩を感じます。

 そのジョン・ウェインと『駅馬車』で共演したクレア・トレヴァーは、乗客のひとり。あの時のダラスを思わせる派手さで、事故なんぞ何のそのといった素振りの豪傑ぶりを見せます。このクレア・トレヴァーと、写真結婚する婚約者を訪ねる女性を演じたジャン・スターリングが、アカデミー助演女優賞にノミネートされています。

 何より素晴らしいのが音楽です。ディミトリ・ティオムキン作曲によるテーマ音楽は、アカデミー賞を獲得しました。遥か昔、ラジオでこの音楽を聴いて、カセットに録音して、何度も何度も聞きました。どんな映画なのだろう、と思いを馳せて、それからどれだけの多くの月日が経ったことでしょう。やっと見ることが出来ました。シネマスコープのオープニングに、この曲がかかったのを見て、泣きだしそうになりました。この音楽は、ジョン・ウェインの口笛で、何度も流れるのですが、心に染み入る素晴らしい音楽なのです。

 航空パニック映画でありながら、特殊効果さえもほとんど使われていない作品です。今の映画は勿論のこと、70年代パニック映画を見慣れた世代には、何とも物足りない映画ではありましょう。しかし、この音楽、達者な役者陣。この映画があったから、のちに沢山の名作パニック映画が生まれたのだろうな、と思わせてくれる、そんな作品です。


トレイラーです。




素晴らしい音楽をどうぞ。聞いただけで涙が出てきます。







  


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