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Channel: 銀幕と緑のピッチとインクの匂い
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『レベッカ』~テーマ

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 1940年のアメリカ映画です。監督は、アルフレッド・ヒッチコック。ヒッチコックの渡米第1作でもあります。同年のアカデミー作品賞を受賞した名作であり、主演男優、女優、助演女優賞にもノミネートされています。音楽は、フランツ・ワックスマン。

 避暑地リビエラで知り合った上流階級の紳士マキシムと、老婦人のコンパニオンをしていた若い「わたし」は、恋に落ちて結婚し、マキシムの住むマンダレーの屋敷にやってきます。その広大だが、古めかしい屋敷を牛耳るのは家政婦のダンヴァース夫人。彼女は、マキシムの前妻で亡くなったレベッカを崇拝しており、新妻に冷たく当たります。元々身分違いの愛であり、まだ若い「わたし」はマキシムを愛しながらも、屋敷の雰囲気に気おされていきますが……。

 原作は、『鳥』を書いたダフネ・デュ・モーリアです。

 ジョーン・フォンテーンは大好きな女優さんです。美しく、知的で、繊細で品が良い。まさしく、ヒッチコックが大好きなタイプのヒッチコックビューティズであり、次作の『断崖』でもヒロインに起用されています。ヒロインを演じる彼女は、映画の中では「わたし」と表現されています。まだ若く、多分あまり恵まれない娘であったであろう彼女は、ずっと年上の名門の紳士マキシム、ローレンス・オリヴェエと恋に落ちます。この恋の模様がとても可愛いのです。相手は、あの笑わないオリヴィエ。風格だけは十分すぎるぐらいの彼と、おどおどしながらも、愛を知った喜びに打ち震えるフォンテーンのちょっとしたすれ違いも含んだ恋の様子が微笑ましく描かれます。

 彼らは結婚して、マキシムの住むマンダレーの屋敷にやってきます。この広大だけれど、古い威厳のある屋敷の存在感。この屋敷もまた、主演者のひとりではないかと思います。

 そして、もうひとりの主演者は、マキシムの亡くなった前妻レベッカ。彼女は亡くなっているのですが、未だに絶大な存在感を持ち、特に家政婦のダンヴァース夫人は彼女を敬愛していました。そんなダンヴァース夫人が、新参者の若妻を受け入れられるわけもなく、「わたし」はダンヴァース夫人からそれとない嫌がらせの数々を受けます。後ろからそっと近づいてくるダンヴァース夫人、「わたし」にそっと耳打ちするダンヴァース夫人。いやあ、その辺のホラー映画より、彼女のほうがずっと怖いです。

 そこに小うるさい親戚のおばさんや、レベッカの従兄などが絡んで来て、世間知らずな娘だった「わたし」はすっかり悩める奥さまになってしまいます。それでも、彼女はマキシムを愛し、彼の為に尽くします。しかし、マキシムはレベッカの話題をことごとく避けようとします。

 圧巻は、「あの」ドレスを着て、階段を降りてくるジョーン・フォンテーン。あの美しいドレスと帽子。何と美しいのでしょう!普通なら大絶賛を浴びるシーンなのですが、しかしながらそうはなりません…。可愛そうな「わたし」。

 大きな屋敷に、山のような使用人。しかし、彼女にはひとりも心を許せる人がいません。愛する夫さえも、遠い人になってしまいます。普通なら、おかしくなって出て行ってしまうところでしょう。のしかかってきて消えないレベッカの影。でも、「わたし」は真実を知った時、今までのびくびくした弱い娘から、変貌を遂げるのです。この映画を観た時は、私はまだ10代の若い時でしたが、女性の強さをつくづく感じた映画でもありました。

 ジョーン・フォンテーンの美しさ。ローレンス・オリヴィエの紳士然とした貫録。ダンヴァース夫人を演じるジュディス・アンダーソンの不気味さ。素晴らしい俳優陣に恵まれ、ヒッチコックという才ある監督がまとめあげて出来た傑作です。例の恋愛逃避行の末に渡米してきたオリヴィエは、ヒロインに妻のヴィヴィアン・リーを押したと言いますが、製作のセルズニックが、そして多分ヒッチコックも、ジョーン・フォンテーンを押して彼女がヒロインになりました。そして、彼女は大スターへの階段を登って行きました。ヴィヴィアンより、やはりジョーンの方がこの役にふさわしかったと思います。


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